東京高等裁判所 昭和35年(う)267号 判決
被告人 越後保蔵
〔抄 録〕
論旨第一点について
所論は、被告人は判示杉丸太による殴打につき共謀した事実はないのであるから、判示安田吉男及び市川鉄夫の傷害の結果につき責任を負ういわれはないと主張する。よつて原判決の判示事実をその挙示する証拠と対照して仔細に検討するに、右証拠によれば、被告人は判示日時頃飲酒の上高橋繁利等数名と共に判示路上を横に並んで歩行中、反対方向から同様飲酒の上歩行して来た安田吉男、市川鉄夫外一名とすれちがつたが、その際被告人は右安田と体が接触したことから同人との間に口論となり、同人と格闘を始めたので、双方の同行者はこれを制止したが、被告人及び安田はこれに従わず依然格闘を続けるので、同行者等は一対一で格闘させることとし、傍観していたところ、市川が安田に加勢する気配があつたところから、被告人の同行者である前記高橋、篠田高光、中山春行、中山末吉等は被告人に加勢するため附近の民家軒先から判示杉丸太を持ち来り、折柄被告人を組み伏せていた安田及びその附近にいた市川を殴打し、それぞれ判示のような傷害を与えたことを認め得るけれども、その間被告人が右高橋等の加勢を求めたとか、被告人と高橋等との間に、明示或いは暗黙裡に、互に相協力して安田等に暴行を加えんとする意思の連絡があつたという点については、これを認めるに足る何等の証拠もなく、むしろ右高橋等が、被告人の意思にかかわりなく、一方的に被告人を助けるため安田等に暴行を加へ前記のような結果を発生させたものと認めるのが相当である。もつとも、安田吉男が受けた左上腕打撲皮下溢血の傷害は被告人と安田との格闘の間における被告人の暴行によつても生ずる可能性はあるけれども、この点についても、被告人の暴行によるものと認むべき的確な証拠はない。
してみれば、被告人は安田に対する暴行の責任を問われるのは当然であるとしても、高橋等との共謀に基く安田及び市川に対する傷害の責任を負うべきいわれはない。すなわち、原判決にはこの点において事実とこれを認定した証拠との間に理由のくいちがいがあるというべきである。なお原審における訴訟記録及び当審における事実取調の結果に徴しても、前記共謀の点を裏付けるに足る証拠を発見できない。論旨は理由があり、原判決は破棄を免れない。
(岩田 渡辺辰 司波)